鳥類的雑記帳

色々と思っている事を書き連ねていくつもりです。

【読書感想文】君は月夜に光り輝く(佐野徹夜)

 メディアワークス文庫で一時期とても人気があった小説で、実写映画化もされたはず。話題になってた頃に買ったけど読む気が沸かず、あろうことかビニールかぶったまま年単位で放置されてた。ちょっと思うところあって読んでみた。

 

 あらすじとしては捻ったことはなく、高校生のごくごく平凡な少年が、難病を抱える薄幸の美少女と出会うもの。類似した作品をあげたらキリがなさそう。なんかどこかでこんなエロゲやって覚えがある(突如湧き上がる存在しない記憶)。でも個人的に電撃レーベルでこのあらすじだと、どうしても「半分の月がのぼる空」を思い出さずにはいられない。ヒロインの病気が「発光病」という架空の病気になってる特徴以外は、要素だけ見るとほとんど同じ。まぁ小説というのは要素だけで語るにあらず。描写のあり方や台詞回し、登場人物の心情の移り変わりなど、全体的に見れば結構違う。なので別にパクリとかそういうことが言いたいわけではない。

 むしろ文句をつけたいのは裏表紙にある煽り文で、「みんなが泣いた、圧倒的感動がここにーー」ってのはもうちょいなんとかなったのでは?って思わんでもない。

 文章は全体的に読みやすく、スラスラいけた。久々に一日で小説を読み切ったくらい。メディアワークス文庫らしく文章はラノベらしくないけど、一般文芸よりかと言われると、それはそれで首を傾げちゃう。読みやすいのは間違いないから下手くそとかそういうことじゃない。見通しが良いとか、澄み切ってると言うべきか。個人的にはもうちょい味付けは濃くてもいいと思う。

 あと小説としてじゃないけど、ヒロインの子のデザインが可愛い。薄幸の美少女が黒髪ロングなのは鉄板。実に正しい。

(以下、ネタバレあり)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 筋としてはシンプルで、薄幸の美少女に出会う、仲良くなる、付き合う感じになる、死別。これを文庫300ページでやろうとなるとそれほどひねるところなんてないのかもしれない。上述したように文章からあんまり味がしないのも合わさって、お粥みたいにのどごしがいい。

 そういう話の筋で、この作品を特徴づけている要素がふたつほどあって、それが「発光病」と「死ぬまでにしたいことが書かれたノートとそれを実行する主人公」というもの。

 特に後者がメインの筋立てになるので、それはもう色んなことを主人公やらされるし、それに沿って話が進行する。バンジージャンプはともかく、ロミオとジュリエットのジュリエットに立候補させるのはきつすぎる。あとさすがに主人公がホイホイ付き合いすぎじゃないかという気持ちもあるが……。ちなみに、この筋書きもどっかで見たことあるなと思って調べたら、「死ぬまでにしたい10のこと」だ。さすがにパクリとは言わないけど。

 それより「発光病」についてはもうちょっと何かあったほうが良かったんじゃないかと、ちょっと思ってしまうのは自分が設定厨だからだろうか。架空の病気でわりとロマンチックだし、ラストの煙が光って見えるのもなかなかいい感じなのに、どうもふんわりしている。今気づいたけど、本全体のページ数がだいちあ300ページで、発光病についての詳細がほんの少しでも触れられるのが100ページ目くらいだった。三分の一くらい過ぎないと言及されないあたり、これはもうフレーバー要素として考えておくのが正しい読み方かもしれない。ぐだぐだと病気の詳細な描写をする必要のある話だったかと言われれば、まぁ微妙だし。

 

 やっぱり青春時代に大きな刺激を受けた「半分の月がのぼる空」が、頭にちらついてしょうがない。ラノベにハマったきっかけどころか小説の面白さを教えてくれた作品のひとつでもある。どっちが好きなんだって聞かれるとこれはもう「半分の月がのぼる空」のほうが好きと答えるしかないんだけど、自分の好みというだけで他意はない。文章の味付けは濃いほうが好みなのである。今思うと、橋本紡は出汁の効いたいい文だった。

 そうは言ってもこの「君は月夜に光り輝く」と「半分の月がのぼる空」には明確な違いがあって、それはヒロインの最期である。「半分の月がのぼる空」は8巻ほど続いて、難病を抱えたヒロイン里香がどうなるかについてはボカされたまま終わった。それまでに夏目という主人公祐一の未来を象徴するキャラによって遠回しに表現されているが、あの頃の僕はどうにも「逃げたな」という印象を拭えずにいた。一方で「君は月夜に光り輝く」ではヒロインはあっさりと(と言うと語弊あるけど)、死んでしまう。そういう事態に主人公が直面することを正面から書いていたことについては、個人的には好ましいことだった。ただラストのヒロインが気持ちを吐露する場面はちょっと冷めた。むしろ好きなのは悪友と一緒に墓参りに行ったりしているところ。まぁ好みの問題でもある。友情のほうが好きなんだよぼかぁ。

 なんというか、懐かしい気持ちになった小説でした。